サドルこそ自転車の快適性を決定づける重要な部分であることに疑いはありません。サイクリストは、アマチュアでもプロ選手でも、快適かつ機能的に身体を支えてもらうことを求め続けています。そのことこそが快適性だけでなく充分なパフォーマンスを保証してくれるからです。さらに、サドルの支えが不十分な場合、尿路の炎症や会陰部の弱さという問題を悪化させる恐れがあります。長年にわたって誤解されていたのは、お尻の形状に合ったサドルを使えばいいと思われていたことです。今日、より深い研究の結果、サドルと骨盤の間にいかに充分な空間を確保するかという点が大切だということが分かりました。このところ、これまでの常識に根拠がなくなり、理論を部分的に大きく書き換える必要が出てきました。1つ目はサドル幅についてです。ごく最近行われた50000人を対象とした研究で分かったのは、性別よりも体格の差が影響を及ぼすことです。男女間の骨盤の形状の相違から長年にわたって誤解が生じていました。間違いなく、女性の座骨は男性に比べ開いています。しかし、女性の骨盤自体、平均的男性とくらべて小さいのです。その結果、サドル選びの最初の指標は性別だけでなく、個人の体格差が大きな影響を及ぼすのです。
同じ研究で分かったのは、サドル上で身体を支える点が大腿部付け根の周長によって大きく変化することでした。この寸法は、骨盤の幅と比べても、サドル上のどこに座るかという前後位置により多くの影響を与えるのです。大腿部の周長がサドル上で坐る前後位置に影響を与えるのは、骨盤から大腿部を伸ばしていく時、サドルの横方向の形状によっては、そこで抵抗が生まれ、ヒザ下が伸びなくなってしまうからです。もっと分かりやすく説明しましょう。ジムにあるトレーニングバイクのサドル形状を思い出してください。前後にかなり短くて大腿部が無理なく伸びてペダリングしやすくなっています。サドルが長いとこの動作がやりにくくなります。横幅の広いサドルでも同様の現象が発生します…骨盤に比べて大腿部周長が大きな人はサドル前方の細い部分に坐って大腿部を自由に動かせるようにします。しかし、そのように前方に移動した場合、サドルの設計とは異なり、かなり不快な箇所で身体を支えることになります。実際、座骨はサドルの本来設計された座面を外れて前方のノーズ部分に会陰部が載り、本来、身体を支えるべきではない箇所に圧力がかかるのです。
同時に、サドル上での骨盤の前方への傾き具合も、サドル選びに影響します。骨盤を大きく前方に傾ける人の場合、サドルと会陰部の間に空間がなくなり、柔らかい組織への圧迫度が高まります。その場合は、中央部の圧迫度を下げる形状、つまり深い溝や穴が開いているモデルを使ってサドルと骨盤の間で組織が圧迫されないようにします。
サドル選びは簡単ではありません。数多くの人体計測と機能上の特徴を考慮に入れる結果、その人独自の主観的な選択になりがちだからです。しかし同じように大切なのは、自分に合うサドルを理解し、その機能を最高に発揮させるために正しく使用することが重要なのです。